cafē 水照玉 & hostel~多忙なスローライフ徒然

屋久島・永田のCafēとゲストハウス。ゆる~く菜食&マクロビオティック 営業案内と田舎暮らし・農・食・サスティナブル・教育その他雑多に。

節句と様式化したアロマテラピーグッズ・薬玉

~ 節句・様式化したアロマテラピーグッズ・くすだま薬玉 ~

 風光る五月。ぽんやりとしていた春の風景が、風も空も透明に澄んで新緑の息吹に包まれていきます。若葉色に菖蒲や藤の紫が映える様は凛として高貴な印象です。五月と言えば端午の節句。現在では
子供の日の呼称がポピュラーです。鯉幟を立てて柏餅と粽を食べる行事、というイメージが一般的ですが、別名を菖蒲の節句とも呼びます。
 
 節句は文字通り「季節の区切り」の意味。折々の気候の変化や天地の営みを寿いで、人が無理なく
その歩調に合わせていく為のもの・・と考えるのが現代的でしょうか?人日(七草)・上巳・端午
七夕・重陽が代表的な五節句だというのは前にもご紹介しましたね。人日ではなく元旦とする説も
ありますが、各々に七草・桃・菖蒲・竹(笹)・菊という植物が用いられます。単に飾るだけでなく
本来はお酒に入れたり、料理として食用される他、お風呂に入れて薬湯に、長寿のお呪いとして香りや
エキスを利用したりと実に多彩な利用がされていました。どの植物も殺菌・整腸や疲労回復などの
薬効成分、香りの鎮静や癒しの効果が現代では認められています。
 つまり今でいう薬膳料理や植物療法に相当する訳です。その中でもとりわけ典雅で洗練された
アロマテラピーといえるのが、「端午の節句」と「重陽節句」です。重陽の方は別の機会に譲ると
して、源氏物語平安時代有職故実を記した延喜式を紐解くと、端午の節句には「くすだま薬玉」
を臣下や想い人に送ったという記載が見られます。

 薬玉というと式典でテープや紙ふぶきが出てくる物を思い浮かべてしまいますが、平安時代のそれは
菖蒲やちがや茅、まこも真菰、よもぎ蓬などの植物を丸い玉状にまとめ、五色の紐をつけた物です。
元々中国の習慣で最初は菖蒲や茅の葉を束ねただけの物だったようです。茅は葦や真菰と同種の水辺に
生えるイネ科の植物で粽に使われています。薬玉に使われている植物はどれも独特の爽やかな香りが
しますが、古来梅や橘など香の強い植物には魔や穢れを祓い生命を蘇えらせる力があると考えられ、
菖蒲や茅などはその長細い葉が剣に似ている事もあって尊ばれたようです。特に菖蒲は「勝負」や
「尚武」に通じ、武家が台頭する鎌倉期以降、男子の節句として端午の節句が定着していく原因にも
なっています。「菖蒲打ち」といって、菖蒲の葉を剣に見立てて、地面を叩いて地の神や魔を鎮めたり、合戦の真似事をする習慣も、割合最近まで田舎の方などではありました。

 旧暦五月・端午の頃は現代では梅雨入りの頃。気温と湿気が増し、腐敗やカビ、病気が発生しやすい
季節です。じめじめした日が続くと気が滅入ってくるのは現代人も古代の人々も同じ。陰気=マイナス
思考や気分は体調にも影響するため、古代は梅雨から真夏にかけて疫病が頻繁に発生したり、疲労
川や海での溺死などが実際に多かったようです。そんな時、薬玉や菖蒲湯から漂う爽やかな香りは
殺菌効果ばかりでなく、気持ちも体もリフレッシュして人々に活力を蘇えらせたのは想像に難くありま
せん。
 「魔や穢れ」というのは、不幸や災難を呼び込む原因となる陰気なマイナス思考や病気・腐敗などを
さしていると言っても間違いではありません。実際に悪霊や妖怪がいても陽気で生命力や活力に溢れた
人より、陰気で活力のない人の方が取り憑きやすいはずです。植物の薬効効果や香りはそうした意味でも、まさしく穢れを祓う神々の力と恵みですから、季節の折々に必ず節句として、草木や花々を様々に
用いたのです。
 時代が下ると薬玉は、さらに優雅に進化します。竹や蔓で編んだ丸い籠の中に香木や蓬・菖蒲・
茅の葉を入れ、外側を葉や花で飾り、天地の運行を司る五行(木・火・土・金・水)を意味する五色の紐や糸、翡翠などの玉をあしらって美しく仕上げるのです。造り花で飾る場合も多くありました。相手の
健康や繁栄、魔や穢れが祓われることを願って、想い人や大切な家族・子供などに文と共に贈ったと
文献には見られます。丸い形は魂や生命そのもの、あるいは神を現しています。薬玉は爽やかな香りで神々の依り代となり、送り主の代わりに大切な人を魔や穢れから守り元気付けてくれるのです。
西洋の魔よけのリースやポプリと同じですね。現代の新緑の風が薫る五月に、手近な蓬の香りを
味わいながら、そんないにしえ人の優雅な節句の香りに想いを馳せてみるのも、なかなかに爽やかで
素敵だと思いますが如何でしょうか?

五月  皐月・橘月・たぐさづき多草月・さいねづき早稲月・盛夏・ばいか梅夏・せいか星花
5/1  朔月
5/2  八十八夜
5/5  端午の節句新暦
5/6  立夏   蛙始鳴(かえるはじめてなく)
5/11      蚯蚓出(きゅういんいずる) 
5/15  京都・葵祭り(上賀茂・下加茂神社)
5/16      竹芛生(ちくかんしょうず)
5/17  望月  旧更衣
5/19  奈良・うちわ団扇撒会式(唐招提寺
5/21 小満   蚕起食桑(かいこおこってくわをくらう)
5/26       紅花栄(こうかさかう)
5/31       麦秋至(ばくしゅういたる)

 注釈 蚯蚓→みみずのこと / 竹芛→筍のこと
    小満→万物が夏の訪れとともに成長して天地に満ちる意味
    紅花→紅花が花盛りになる / 麦秋→麦の実りのこと