cafē 水照玉 & hostel~多忙なスローライフ徒然

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4月卯月~時を経るほどに、漆うるわし。その名もJAPAN~

四月・卯月・鎮月・うの卯はなづき花月・なつはづき夏初月・初夏・麦秋・青和
~時を経るほどに、漆うるわし。その名もJAPAN~

 JAPAN。英語で漆器の事をそう呼びます。磁器全般をCHINAと呼びますが、
室町時代に日本の漆器がヨーロッパにもたらされて以降、漆器は日本製こそが最高であると
考えられていた証です。青森県三内丸山遺跡から目も覚めるほど鮮やかな朱塗漆器が出土
したのは記憶に新しい所ですが、漆器は土器と共に最も古くから日本人に愛されてきた器です。

 縄文時代に既に三千年の時を超える高度な技術があったわけですが、現代でも蒔絵や螺鈿などの
装飾や細かい作業を計算すると漆器の製作工程は200以上になるとも言われ、合理性や大量生産
システムからは最も遠い、気の遠くなるような手間隙と労力の中で生まれてくる器です。
 日本人は世界的に見ても陶器・磁器・金属製品・ガラス食器に竹製品と日常の食卓に使用する器の
種類と数が非常に多彩な民族ですが、このコーナーのタイトルにもある「うるわし」という言葉。
この「うるわし」が「漆」になったと言う説もあるほど、日本的で、日本人が愛で、その精神文化や
美意識が色濃く反映されている器はないかもしれません。何故なら歳月を経れば経るほどに、丈夫さと、
深みと透明感のある美しさを増していく「生きた器」として何代にもわたって大切に受け継がれるのが
漆器だったからです。真新しい漆器は熱や摩擦に弱く、使う前にぬるま湯で温めたり、使い終わったら
放置せずすぐ洗って水気を拭き取ったりと、まるで赤ん坊を扱うのに似た手間と優しさが必要です。
当然食器洗浄器や電子レンジ、水の中につけっ放しなんて不可で、プラスチック製品や大量生産の
陶磁器に慣れている現代人にはなるほど面倒な代物。でもあたかも少女が成長して美しい女性、
そして母へと変わっていくように、丁寧に使い込まれるにしたがって漆はその堅牢さと艶やかさ、
透明感を増して、一つ一つが独特の風合いと個性を醸し出すようになっていきます。

 漆器には江戸時代頃の物が未だに日常の食器として使われている例も少なくありません。漆本来の
そうした性質に加えて、剥げたり欠けたりしても、塗り直しや修理で新品同様に出来る技術、
一生物どころか何世代にもわたって繰り返し使い、受け継いでいく為のリサイクル・リユースのシステムが社会的にも確立していた為です。ですから漆製品は「日常使い」の食器として母から娘へ、祖母から
孫へと、ほんの20年前くらい前までの日本では日常の家事や生活の中で手入れや使用法など、
生活の技術や知識と共にごく自然に伝承されていました。
 核家族化や使い捨て・大量生産を根底に置く樹脂製品の普及の中で、そうした生活文化や社会的なインフラ基盤とでもいうべき物が現代でプッツリと途切れてしまっているです。
 最近ではメラミン樹脂やプラスチックの「漆もどき」も数多く見られますが、正しく使えば年を重ねる
ほど美しくなる漆とは逆に、古くなればなるほど、見た目にも汚くみすぼらしくなってしまう為、何年かの内にはそれらは必ずゴミとして捨てられていく運命で、「たった一生」使うことすら出来ないのです。

 実はこれはそっくり現代の高齢化問題にもあてはまります。江戸時代、水戸黄門ではないですが
「ご隠居さん」になるのは当時人々の憧れであり、高齢者は非常に大切にされていたようです。
 平均寿命も短く長生きする人も現代よりはずっと少ない為もありますが、あたかも酒が時間と共に
醸されていく如く、「老い」とは年を経て知識や経験を重ね、人間に深みと美を増すものであり、
またそうした「老い」を目指す個々の生き方が陽明学等の影響から重んじられた時代だったからです。
 人も物もじっくりと歳月や歴史を重ねる事、そこに「美」を認め、尊び、大切に受け継いでいく
精神文化。千年以上寸分変わらぬ形で造営され続ける、世界に類をみない伊勢神宮式年遷宮のシステム
も同様です。老人が同居を嫌がられ、殆ど厄介者扱いで老人ホームに入れられる現実すら見られる現代
は、人間も古く汚くなると使い捨てなのかしら?と思えてきます。
 根本的に現代の老い=マイナスイメージも疑問です。漆うるわし。日常の中での僅かな手間、その蓄積としての歳月だけが持ちえる「美」こそを尊んだ伝統的な日本の生活や生き方の文化。貴方の生活や生き方は漆?それともメラミン樹脂ですか?